ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

女教師が生徒にいたずらされていた話

中学二年生の時、新卒の英語の先生が赴任してきた。僕の中学は田舎でヤンチャな生徒が多く、ましてや新卒の女の先生ということで、彼女は生徒にナメられてしまっていた。英語の指導に関しても、たまに生徒に間違いを指摘されたりしており、真面目な生徒からの評判もあまり良くはなかったという非常に気の毒な先生であった。

 

ある日の英語の授業の前の休み時間、わりと真面目なほうだった生徒の何人かが、ニヤけた顔でドアに黒板消しを挟んでいた。それはどうなんだと思った。

とても非道な仕打ちだと思ったが、聞けばどうやら先生がこのトラップを仕掛けることを許可したらしい。理由としては、「一度そういう先生っぽいことされてみたい」だとか、「私はそんなトラップに引っかからない自信がある」だとか、そういったことなのだという。少し頭のおかしな先生だなと思った。

トラップの成否はどうだったのかというと、先生は見事にトラップを見抜いて回避し、ニヤつきながら「まだまだ甘いな」とつぶやいたのであった。ちょっとだけ、イラッとした。

 

それからというもの、先生と生徒たちのバトルは激化の一途をたどり、毎回のように黒板消しのトラップが仕掛けられるようになった。はじめのうちは手や頭をかすめることもあり、惜しい所まで行っていたのだが、先生も戦いの中で成長するタイプの教師であったため、1ヶ月も経つ頃にはほとんど回避されるようになってしまった。先生はますます挑発的になり、その度に生徒たちは苦悶の表情を浮かべていたのであった。

こいつら学校で何してんだ、と思った。

 

先生の挑発に苛立った生徒たちは、頭の良い生徒を結集させ、このトラップを抜本的に改変することにしたらしい。

頭の良い生徒たちが出した結論はこうだ。

「ドアに黒板消しが挟まっている時点で、トラップの存在を先生に認識されてしまう。これは知的生命体に対する仕掛けとしてあまりに稚拙である。仕組みを次のように改変することで、限りなく成功確率を高めるトラップの設置が可能である。」

 

「まず、以下の様な装置を作り、先生の到着を待つ。」

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「先生がドアを開けると、ドアに挟んでいた糸がゆるむ。」

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「黒板消しを支えていた糸がゆるむので、黒板消しは重みで弧を描きながら落ちてゆく。」

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いや、どこに頭使ってんだ、馬鹿じゃねえのか、と思った。

 

とにもかくにも、この作戦は決行されることになった。ダミーのため、何度かトラップを仕掛けない日まで用意されていた。先生は黒板消しのないドアを開ける度に、ニヤつきながら「もう諦めたの?」などと挑発的な態度を取っていたが、生徒たちは作戦が決してバレないよう、敗者の面構えに徹していた。カイジみたいなやり方してんじゃねえ、と思った。

そしてついに決行の日。生徒たちは万全の状態で英語の授業の開始を待っていた。先生が遠くから現れたのを合図に、彼らは席についた。徐々に大きくなる足音に合わせて、彼らの顔も緊張で引きつっていった。先生がドアを開け、仕掛けが作動する。黒板消しが、弧を描いて先生の顔面めがけて飛んでいく。

 

次の瞬間、黒板消しが、半開きのドアに当たる音が、教室にこだました。そう、黒板消しは、先生にヒットしなかった。先生の顔面をわずかにかすめたものの、そのままスルーし、ドアに直撃してしまった。だが先生は、何が起きたのかも分からないような表情で、無言のまま虚空を見つめていた。完全に、不意を突かれていたようだった。

教室の空気が、なんか、変な感じになった。先生も生徒たちも、全員、無言のまま、授業が始まった。そしてその日から、もうトラップを仕掛けることも、挑発し合うことも、一切されなくなった。完全に、変な感じになっていた。

 

変な感じになった先生は、翌年、他の学校に変な感じで異動になった。