ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

気が狂った鬼コーチに指導された話

保育園に通っていた頃、年に一回、鼓笛隊と銘打って園児たちが大きなコンクールみたいなところで楽器を演奏するというやつがあった。

各自先生に担当の楽器を指定されるのだが、僕は年長のときに指揮者を任された。指揮者といってもいわゆる指揮をするわけではなく、なんか1メートルくらいの大きな棒を振り回したり空中に投げたりする、とち狂った役割だ。

この指揮者というのはどうやらけっこうきついらしく、毎年指揮者に選ばれてしまった者は、専任のコーチみたいなのがついて夕方遅くまで居残り、泣きながら練習をさせられる。過去、上級生の指揮者の練習風景を見ていた僕は、あまりこの指揮者にはなりたくなかった。

 

しかし、いざ自分が指揮者として専任のコーチから教えてもらうと、そんなにきついものではなかった。教えられたことをこなすだけなので、なんでこれでみんな泣いていたのか意味が分からなかった。そんな中コーチは、一生懸命練習をこなす僕を見て、なんだこいつ泣かないのか的な感じを漂わせていた。「いつもみんな泣いちゃうんだけど、君は泣かないねえ?」みたいなことも言ってきた。どうやら「自分が厳しい練習を強いて園児が泣きながら練習を頑張る」というドラマに酔いたいタイプのコーチらしい。めんどくさかったので、目を手で何度も拭って泣いたフリをしたら、コーチが満足気にニヤニヤしながら「泣くな泣くな〜」と言ってきた。少しイラッとした。

 

発表会も近かったある日、遊びの時間になったので、保育園の庭に置いてある遊具を取りに僕は外に出た。僕は余っていた三輪車を手にとり、乗って遊ぼうと足をかけた。その時、一つ下の生意気な保育園児が僕の持っていた三輪車をつかみ、奪い取ろうとした。なんだこの保育園児、頭おかしいのかと思った僕は、ぐいと三輪車を引き戻した。その保育園児が苛立って僕に砂をかけてきたので、どういう教育受けてきたんだと思った僕は、仕返しの意味で同じように彼に砂をかけた。どうやらそこを先生に見られていたらしく、先生が遠くの方から鬼の形相で僕を呼びつけた。先生は、「人が遊んでいた三輪車を盗るんじゃない」と言った。「取るんじゃない」でなく、「盗るんじゃない」と言っていた。さらには、「砂をかけるなんて最低だよ」と言った。僕は必死に弁解をしたが、理解も許しも得られなかった。挙句の果てに先生は、「そんなんじゃ指揮者やめさせるからね」と言った。やらせてくれって言ってねえだろと思った。

結局この件は僕が折れて泣き寝入りをしたので、先生もなんとかお許しをくださって、僕は指揮者を継続できることになった。

 

そしていよいよ訪れた発表の日、僕は順調に指揮者としてのとち狂ったパフォーマンスを披露していった。演奏の最後に、指揮者が空中に棒を投げてキャッチするという見せ場があるのだが、毎年みんな調子に乗って高く投げすぎてキャッチに失敗していた。それが怖かった僕は、低めに投げて見事キャッチすることに成功した。

 

自分でも大満足のパフォーマンスを見せられたので、僕はホクホク顔で舞台を降りた。僕を叱った先生も笑顔で褒めてくれたので、僕は指揮者をやってよかったかもしれないと思った。そんな僕のところに、コーチが近寄ってきて「最後びびって低く投げたでしょ〜(笑)」と変なカラミをしてきた。こいつが一番腹立つな、と思った。