ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

NIRVANA

小学校の頃、太りすぎたので親が心配して僕をスイミングスクールに通わせていた。

 

スイミングスクールでは、ランクごとに級が分かれていた。僕と同じ級の人で、なんかずっとニヤニヤしてる男の子がいたので、どうしてニヤニヤしているのか話しかけてみた。彼は、潜って壁を蹴る、いわゆる「蹴伸び」の時に、スーパーマンのようなポーズをするのが楽しくて仕方がないのだという。よほど日常がつまらないのかな、と思いつつ、そうなんだと相槌を打っておいた。あと、彼はなぜかそれを、「スッパマン」と呼んでいた。なぜDr.スランプアラレちゃんの登場人物のほうにしたのか意味は全く分からないが、とにかく呼んでいた。

彼はなぜか僕が心を開いたと思い込んだらしく、たびたび話しかけてくるようになった。そしてそのたびに、僕にも「スッパマン」をやるよう強制してくるのだった。全然おもしろくないのであまりやりたくなかったが、これをやると彼が狂ったサルのように歓喜するので、彼のためにも仕方なくやることにしていた。

 

ある日、写真撮影をしましょうという日があった。各々好きなポーズで泳いでいるときの水中写真が撮れるらしい。僕は嫌な予感がしたので、彼が話しかけてこないようにずっと距離を取っていた。しかし油断したスキにいつの間にか彼は僕の背後に回りこんでおり、僕に「スッパマンのポーズで写真撮ってよ」と言ってきた。自分でやったらいいだろと思った。話を聞くと、彼は既にスッパマンで写真撮影済みだった。じゃあもういいだろと思った。

あまりに彼がしつこいので、僕は仕方なくスッパマンで写真を撮ることにした。写真撮影をずっと見ていた彼は、狂ったように手を叩いて喜んでいた。もう少し情緒を安定させたほうがいいんじゃないかと思った。

 

後日、写真が出来たので彼に見せてみた。僕は、また彼の不安定な情緒を見ることができるかもしれないと、少しわくわくしていた。写真を見た彼は、「おぉ〜。いいじゃん。」とだけ言った。ふざけないでほしいと思った。

 

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