ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

超人の保育園児の話

僕が保育園児だったころ、絶対に泣かないと評判のK君という男の子がいた。

保育園児など、ちょっとしたことで泣くものであるが、彼は転んでも泣かず、先生に怒られても泣かず、挙句の果てには、喧嘩した友達にねんど板でぶん殴られ、ねんど板は粉々になり、頭から血を流しても泣かなかったのであった。

僕は彼のその強靭な精神がどこから来るのだろうと不思議で仕方がなかった。

 

ある日、帰宅しようと園内を歩いていた時、ふいに物陰から人の気配がしたので見てみると、K君が座禅を組み、目を閉じて何かに祈りを捧げていた。僕は、これがあの強靭な精神を手に入れるための修行なのだろうと察した。まあ、強靭な精神が手に入るとしても、だいぶ、周囲からあれな目で見られるだろうな、とは思った。

「何してるの」と声をかけてみたが、反応はなかった。絶対聞こえてるだろと言いそうになったが、何も言わないことにした。しばらく黙って見ていると、K君はちらりと薄目をあけてこちらを確認した。「うわ。」と思った。そのまま帰った。

 

翌日K君に、昨日座禅を組んで何をしていたのか聞いてみた。すると彼は、「座禅?何のこと?」と完全にしらをきりはじめた。

蝉の、鳴き声が、よく、聴こえた。それくらい、二人とも、黙っていた。沈黙の中で、二人は、せめぎあっていた。

「なるほど」、と僕は言った。


それ以来、K君は僕と話さなくなった。