ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

恥ずかしい骨格

僕はあごがしゃくれているのだが、小学生の頃、心配した親が僕に矯正をさせようか悩んでいたらしい。

ある日の夜、親が深刻な面持ちで僕を座らせ、「イーってしてごらん?」と言った。僕がしゃくれた噛みあわせを見せつけると、親はただただ悲しげな顔をした。いや、そんなリアクションをしたら遠回しに傷つくだろと思った。

そんなことはつゆ知らない親が、「『さしすせそ』って言ってごらん?」と言った。いじめじゃねえかと思った。僕はしゃくれた骨格で、

「シャ シ シュ シェ ショ」

と言った。親は少し怒ったような口調で、「なに?『シャ』って言った?『さ』でしょ?『さ』!」と言った。怖かった。僕は、一呼吸おき、改めて、

「シャ シ シュ シェ ショ」

と言った。親はさらに口調を荒げて、「さ!」と言った。僕は、何がそんなにキレられるのかも分からず、今度こそ親が期待しているような発音をキメてやると思い、ゆっくりと、冷静に、そう、今度こそは、僕にならできる、今までだってそうやってきたんだから、そう信じて、

「シャ シ シュ シェ ショ」

と言った。親は悲しげに、「やるしかないな…」とつぶやいた。勝手に決断してんじゃねえと思った。

 

数日後、僕は歯医者に連れて行かれた。矯正についての一通りの説明を受けて、歯型を取って、僕の矯正ライフが幕を開けた。

 

矯正をしたことがある人は分かるかもしれないが、始めた頃は器具が邪魔でうまくしゃべれない。何気なく「学校で馬鹿にされそうだな」と親に言うと、心配した親が担任の先生に話を通しておいてくれた。この先生は人に対する思いやりが欠如した特異な先生だったので、僕は不安だった。翌日の朝の会で先生は、「彼は今日から矯正を始めたのでうまくしゃべれませんが、変な目で見ないようにしましょう。」という0点の紹介をしてくれた。友達はいいやつばかりだったので、変な目で見てくるなどということはなかった。こういう時、周りの大人が事態をややこしくするのだと学んだ。

 

この頃から、姉と姉弟ゲンカで口論になると、姉は僕のしゃべり方の違和感で吹き出すようになった。めちゃめちゃ腹立つが、確かに、しゃべり方おかしいやつが真面目な顔で反論してきたら僕も笑うわと思った。僕は矯正のおかげで、争いのないピースフルな暮らしを手に入れることができた。

 

こんな感じで僕の矯正ライフは平坦な道のりではなかったものの、矯正それ自体は順調に進行した。しかし長続きしない性格なので、数年後、どうにもめんどくさくなって、しゃくれが治らないままやめてしまった。

結果として、「しゃくれているものの、歯並びだけはやたら良い」という、なんかすごく恥ずかしい骨格になってしまった。