ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

9次元とは何か

以前、長野に旅行して電車に乗っていた時、50代くらいのおじさんと30代くらいの男性が大きな声で話しながら乗り込んできた。おじさんは終始大きな声で30代男性と話しており、周囲は迷惑そうにしていた。

しばらくすると、座っていた物静かな大学生くらいのお兄さんに、おじさんがからみはじめた。「君はどこから来たの?なるほど、東京ね。君は何を査定している?東京の人間には分からないよ。」などとわけの分からないことを言っていた。大学生は迷惑そうにしていた。こんなわけの分からない言葉を浴びせられて、よく迷惑そうにするだけで済んでるな、とは思った。

30代男性はおじさんに向かって、「兄ちゃんが迷惑そうにしてるんだから、やめてあげなよ。」と言っていた。おじさんは「ごめんごめん、わかったわかった。でもね、政府が国に借金をしているんだよ。」といつまでもわけの分からない話を続けていた。怖かった。

 

あまりに長々と続けるので、30代男性が少し強めの口調でおじさんを注意した。30代男性は普通の人なのかもしれないと思った。

おじさんが注意されてから、長いこと沈黙が続いた。おじさんはずっと、喋りたくてうずうずしているようだった。数分後、ついにおじさんの我慢の限界が訪れたようで、大学生に話しかけようと身を乗り出した。そして、真剣な顔をし、内緒話でもするかのような声で、

「…Youは今…何次元だと思う…?」と聞いていた。ああ、やばいルートに突入してしまったなと思った。

すぐにおじさんは、30代男性に注意された。すると、おじさんは「すいません。じゃあさ、伊藤さん…あなたは何次元だと思う…?」と言った。30代男性は伊藤さんというらしい。伊藤さんは、静かに、「9次元だと…思います…」と返した。伊藤さんも、ダメだった。伊藤さんだけは信じていたのに、伊藤さんも普通の人じゃなかった。

おじさんは大学生に、「そんで…Youは…何次元だと思う…?」ともう一度聞いた。Youって呼び方、ずっとすべってるぞ、と思った。Youは「3次元じゃないんですか?」と返した。するとおじさんは、どういうわけか頭を抱え、「あれ…いや…ちょっとまって…」とつぶやき始めた。そして数秒間黙った後、「あなた…何年か前も、今と同じ席で話したことある?」と言った。ミステリアスすぎるだろ、と思った。

大学生は、「ありません」と答え、電車を降りていった。

 

おじさんが、小さい声で、「9次元…」とだけ、つぶやいた。怖かった。