ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

なにをもって数学者と言えるか

僕の通っていた大学のA教授が、とてもうさんくさい人だった。

僕は大学で数学を学んでいたのであるが、ところどころ分かっていなさそうに教えるので、正しい数学を学べているのか不安で仕方がなかった。「この人分かっていないんだろうな」というのは受講者全員にバレており、徐々にA教授も焦りを見せ始めていくのであった。

 

ある日の授業で、A教授が教科書の定理の証明を黒板に書いて説明していた。僕はそんなにまじめに授業を受けていなかったのだが、ぼーっとしながら話を聞いていると、教授がなにやら迷宮に突入し始めていた。A教授は、分からないなら分からないなりにやり方もあるはずなのだが、どうも自分を大きく見せたいところがあるらしく、教科書などを見ずに授業を進めていくフシがある。それで自分でもわけが分からなくなってしまい、迷宮入りしてしまうというのがいつものパターンなのだ。

この日もA教授は徐々に焦り始めた。だが、「黙ると分かっていないのがバレる」と思ったのか、発する言葉は尽きない。「えーっと…ちょっとまってね…この証明は簡単なんだよ。簡単なの。簡単な証明ほど、思い出せないというのは数学者にとってよくあることなんだ。ははは。」などと意味不明なことをずっと繰り返していた。この人は自分のことを「数学者」と呼びたがるところがあった。まあ数学の教授なので数学者なのだが、かっこいいと思って自称しているところが、ちょっと、あれだった。

最終的に諦めたのか、「うん、そう、だから、このやり方だと、だめなんだということが、言いたかったの。」と言って、黒板に大きくバツ印を書いた。教室が、かつてないほどザワザワした。

 

あとで別の教授が授業中に、「君たちは◯◯の授業を誰に受けているんだい?」と聞いてきた。前に座っている子が、「A教授です」と答えると、その教授は、「ああ…あの詐欺師か…」と言った。教室が、かつてないほどザワザワした。

 

数学者というのは、数学とからめたクソつまらない洒落を言いたがる。A教授も例外ではなく、僕たちはいつも彼に苦しめられた。

かつて、偉大な数学者フェルマーという人物が、多くの数学者を悩ませる、とある超難問を解決できたとノートに書き記していた。フェルマー自身が本当に分かっていたのかは闇の中だが、彼は自分のノートの余白に、「私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる」と書き記していた。この記述は数学者の間ではとても有名で、いまだにフェルマーの名言として語り継がれている。

A教授は、ある日の授業中、なにを思ったのか、突然このフェルマーの発言を引用し、「教科書のこの証明を書くには、黒板の余白が狭すぎるね。」と言った。受講生には、全然、ウケてなかった。