ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

教頭先生のプライドをこなごなに打ち砕いてしまった話

僕が小学生だったある日、担任の先生が急遽休んでしまったので、他の先生たちが交代で僕のクラスの授業を担当してくれることになった。

何時間目かの理科は、教頭先生が担当してくれた。教頭先生ともなると、もうあまり授業を担当することがないのだろう、彼は久しぶりの授業が嬉しかったのか少しニヤつき、浮き足立っているように見えた。大人が浮き足立っているのを見るのは、あまり気分のいいものではないなと思った。

 

号令係だった僕が「起立」と声を発した。すると教頭先生は、「その前に少し準備があります」と言って、教室の後ろで埃をかぶっていたオルガンを運び始めた。理科の授業なのにオルガンを使う理由が知りたくて、みんな興味津々だった。

教頭先生が一人でオルガンを運ぶさまをみんなが固唾を飲んで見守っていると、先生は笑いながら「誰か運ぶの手伝えよ〜」と、自己中心的な発言をした。

みんながしぶしぶ手伝い、ようやくオルガンは教室の前まで運ばれた。

すると教頭先生は、「電源がないな」と言い始めた。オルガンは足で空気を送って音を鳴らすものなので、電源はもともとないのだが、僕は、あえて教えることもないなと思い、言わなかった。先生はずっと笑いながら電源を探していた。頭がおかしくなってしまったのかなと思い、怖かった。

 

この世に存在しない電源を笑いながら探すという狂気は、その後15分ほど続いた。

しびれを切らしたある生徒が、「それ空気で鳴らすやつですよ」と言った。教頭先生は、「なんで早く言わねえんだ」とブチギレた。このタイミングで言ったらブチギレるのは当然だなと思ったが、同時に、15分も探して見つからないならその可能性も疑ったらどうなんだと思った。

 

教頭先生の機嫌は一気に悪くなってしまい、机に座り込んで黙ってしまった。僕は、メンヘラかよと思った。

だがしかし、僕たちは教頭先生がオルガンを使って何をしたかったのかまだ分かっていない。それを知らずに今日が終わると絶対に後悔すると思った僕は、自分に何ができるのか懸命に考え、そして、意を決し、静寂のなか、「起立!」と言ってみた。

 

教頭先生は、「起立じゃねえだろ馬鹿野郎」とブチギレた。続けて先生は、「先生が怒ってるのが分からねえのか」と言っていた。僕は、「いや起立だろ」と思った。まだ授業始まってすらいねえんだぞと思った。

 

先生はブチギレたが、静寂を破ったのは正解だったようで、「まあいい、授業始めるぞ」と言ってくれて、授業が始まることになった。

 

先生はいよいよオルガンの前に座り、何をするのかと思えば、音楽の先生が「起立、礼、着席」の合図に使うあの曲を弾いたのだった。

この瞬間、「わざわざオルガン運んだ理由それだけか」という思いが僕たちの心のなかで爆発し、クラス全員が大爆笑してしまった。

 

先生はまたブチギレた。もはや先生も自分で何をしているのか分からなくなってきてしまったのだろう、生徒の一人を指さし、「じゃあお前がオルガン弾いて号令かけろ」と全く筋が通っていないことを言い出した。

 

指名された彼はピアノを習っていたので、完璧に、弾きこなしてみせた。

 

教頭先生は、悲しげに理科の授業を始めた。