ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

ガリ勉の同級生がヤンキーにボコボコにされた話

中学の時、ガリ勉タイプの同級生が、先輩のヤンキーにボコボコにされた。
理由は、ガリ勉の彼が、目が悪いために目を細めて校内を歩いていたところ、睨まれていると勘違いされたからであった。めっちゃ、かわいそうだと思った。

僕たちのようなガリ勉にとって、中学校はこのように恐ろしい場所であった。


そんな中学校にある日、救世主が現れた。


僕が二年生の時に赴任してきたS先生は、とても怖い顔をした、坊主頭の、クソでかい人だった。「S先生は、K先輩(メインのヤンキー)と殴り合いをしてボコボコにしたらしい」という、そのやり方はどうなんだみたいな噂まで出回るほど先生は恐ろしい存在で、ヤンキーの誰もS先生に逆らえなくなっていた。

S先生は救世主に違いなかった。S先生がいる時だけは、学校に平和が訪れていた。




その頃、ヤンキーたちの間で、服を後輩に売りつけるという行為が流行っていた。
ヤンキーからすれば、いらなくなった服が処分できるうえにお金も入ってくるし、フリーマーケット等と違って後輩だからほぼ必ず買ってくれる、しかも建前としては等価交換だからカツアゲではないという、たいへんイノベーティブなシステムであった。

例に漏れず僕も、あるヤンキーの先輩に3000円で服を買わされた。ヤンキーたちは当時、いわゆるBボーイ的なものに憧れを持っていたらしく、僕が買わされたのもそういうダボダボの服であった。全然いらなかったが、買わざるをえない状況だった。


運が良いのか悪いのか、これが両親にバレてしまい、返してきなさいとこっぴどく叱られた。この状況で返しに行くのは、絶対はじめから断ることより大変なのに、お前ら頭おかしいんかと僕は内心めっちゃキレていた。


翌日、おそるおそる返却しに向かったのだが、僕は何を血迷ったのか「サイズが大きいので返します」とこの手の服にあるまじき発言をしてしまい、ブチギレられた。「いやそういう服だから」と言われた。先輩は周囲にいた仲間のヤンキーたちを呼び始め、僕の発言を共有して爆笑していた。僕は、とてもみじめな気持ちだった。


そこへ、彼はやってきた。


颯爽と風を切って、S先生が僕の元へ歩いてきた。


S先生がそこを通ったのは全くの偶然であったが、先輩のヤンキー数人と僕、というただならぬ空気を察知した先生は、梅干しみたいな表情でヤンキーを睨みつけ、僕に「その服はなんだ?」と聞いてきた。

ヤンキーがすかさず、「それは、そいつの服です」と僕を指差した。

S先生は、みるみるうちに干しぶどうみたいな表情に変貌していき、ヤンキーに向かって「てめえふざけんじゃねえぞ。こんな派手な服、これはおめえの服だろ。こいつが着るわけねえだろうが。」と怒鳴り散らしてくれた。僕は、まあ、それは偏見だろと思った。その後先生は、数回にわたり「こいつがこんな派手な服持ってるわけねえだろうが」と口にした。それはそれであれだぞ、と思った。

何はともあれ僕が救われたのは確かで、最終的に先生は、乳首みたいな悲しげな目でヤンキーたちを職員室に連れて行き、数時間にわたって説教をしてくれたらしい。まさに救世主であった。




数日後、僕はそのヤンキーに同じ服を購入させられた。闇は、思った以上に深いなと確信した。