人間の闇を見たことがない人へ
僕の小学校の校庭には、土手があった。
大きな土手だったので、生徒たちは滑り降りるなどしてよく土手で遊んでいた。
ある日僕と友達で、校庭に置いてある大きなタイヤを土手から転がして遊んでいたところ、転がったタイヤの勢いが止まらず、野球部のベンチを真っ二つに折ってしまったことがあった。
僕たちは、野球部の先生からひどく叱られてしまった。
その日の帰り道、運動神経が悪くいつもベンチから応援してばかりいた野球部の友達が僕たちに話しかけてきた。
「僕がこれ以上座りたくない場所を、壊してくれてありがとう。僕、頑張ってレギュラーになるよ。」と彼は言った。僕は、「うん、頑張って」と言いながら、こんなに気持ちの悪い発言は久しぶりに聞いたなと思った。
翌日、先生が発注したのだろう、学校に、大量の新品のベンチが届いた。
僕といっしょにタイヤを転がした友達が、野球部の彼に、「お前の座る場所、しばらく壊れそうにないな」と言った。子どもは残酷だなと思った。
昼休み、ふと教室の窓から校庭を見ると、野球部の彼が友達みんなの制止をふりきりながらタイヤを土手の上に運んでいた。