ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

犬を飼う時に心がけるべきたったひとつのポイント

僕の実家では、ポッキーという名前の犬を飼っていた。小さい頃からずっと一緒で、よく散歩にも連れて行ったものだった。ポッキーは、家族同然の存在だった。

 

僕が小学校三年生くらいになったある日、突然ポッキーが姿を消した。これまでも脱走することはよくあったが、夜になると帰ってくるので、今回もその類だろうと思っていた。

しかし、何日経ってもポッキーは帰ってこなかった。家族総出で近所を探したが、ついに見つからなかった。

僕は悲しかった。思い返せば、散歩に連れて行くのが面倒でサボってしまった日もあったし、ごはんはいつも残り物の米と味噌汁を混ぜたようなクソまずいやつをあげていた。こんな扱いだからポッキーは戻ってこなくなってしまったのだろうと、僕は心の底から自分を恨んだ。

 

数日後、近所のおばさんが犬を飼い始めたという話を親から聞いた。ポッキーがいなくなってしまった寂しさから、犬と戯れたい気持ちが高まっていた僕は、その犬を見に行くことにした。

おばさんの家の庭につながれた犬は、なんというか、ポッキーにめっちゃよく似ていた。似ていたというか、その、普通にポッキーだった。「ポッキー」と呼びかけると、こっちを向いて嬉しそうに尻尾を振っていた。完全にポッキーだった。

そんなことある?と思いながらしばらく立ちすくんでいると、家の中からおばさんが出てきた。おばさんはうちに何度も来たことがあり、僕がポッキーを飼っていることを知っているはずなので、この状況に対して一体どんなリアクションをするのだろうとドキドキしていた。

 

おばさんの第一声は、「かわいいでしょ」だった。

 

いや、どの口が言ってるんだと思ってキレそうになったが、めっちゃ似ているだけの可能性もあるので、黙っていた。

おばさんは、その犬のことを、「五郎」と呼んでいた。

僕は、宣戦布告の意味を込めて、犬に「ポッキー」と呼びかけた。「五郎」は嬉しそうに僕の方に近寄ってくるのだった。

それを見たおばさんは、「ポッキーはもういなくなっちゃったでしょ。悲しいのはわかるけど、これはおばさんちの犬なのよ。」と言って僕の両肩を掴んで揺さぶってきた。

なんだこいつ、頭おかしいのか、それとも僕がおかしくなってんのか、なんなんだこの状況、と思った。いったん冷静になる必要があると思い、その日は全てを飲み込んで、そのまま帰ることにした。

 

家に帰って両親にこのことを報告すると、「ご近所さんを泥棒みたいに言うんじゃない」と怒られた。両親は、僕がポッキーのいない寂しさで頭がおかしくなってしまったのだと思っているようだった。そんなわけないだろ。お前らも見に行ってこい。完全にポッキーだから。

 

 

いよいよ味方がいなくなってしまった僕は、翌日もう一度だけおばさんの家に行って、ポッキーに会いに行くことにした。

ポッキーは、おばさんの家の真新しい犬小屋に繋がれておとなしくしていた。僕は遠くのほうから、「五郎」と呼びかけてみた。犬はこちらを見向きもしない。やはり、こいつはポッキーなのだ。僕は改めて、「ポッキー」と呼びかけてみた。するとポッキーはしっかりと嬉しそうに僕のほうに向かって尻尾を振っていたのだった。

 

その時、家からおばさんが出てきて、見たこともないような高級なドッグフードを持ってきた。

ポッキーは、狂ったように喜び、皿に盛られたドッグフードに無心でむしゃぶりついていた。

そしてそこからは、何度ポッキーと呼びかけても、ポッキーは僕を完全に無視してきた。

 

僕は、泣き崩れた。