ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

タクシーの運転手さんがブチギレた理由

ずっと前に、深夜にタクシーに乗ったら、運転手さんがキレていた。

「ほら、ここ、さっきまで道路工事しててとんでもなく渋滞していたのに、今はもう工事してないでしょ。交通量が多い時に工事してて迷惑なのに、交通量の少ない今みたいな時間には全然工事してないとか、ふざけてるよな?」と言っていた。初対面なのに「よな?」と同意を求めてきたので、なんだこの人、と思った。

近隣の住民の方々への配慮とか工事する人の勤務時間帯とかいろいろあるんだろうと思ったが、同意を求められたので、「ああ、まあ、そうですね」と返しておいた。

 

一度同意してしまったことで、運転手さんの心の扉のようなものを開けてしまったらしく、そこからはこんこんと政治への批判が始まった。「政治家は無駄な工事いっぱいやりやがって。自分の利益しか考えてねえんだから。」などと言っていた。「権力で女たぶらかしやがってよ」とも言っていた。「僻み」というワードが頭に浮かんだ。彼は続けて、「政治家はホストかなにかやってりゃいいんだ。そうすりゃ女ひっかけたって何も文句ねえよ。」と言った。なんとなく、この人はホストにも文句言ってそうだな、と思った。

 

なんとなく、こっちからも発言しておいたほうがいいかなと思ったので、「応援してる政治家とかいるんですか」と聞いてみた。その人は2分くらい「う〜ん…」と悩んでいた。僕はどうしても答えを聞きたかったので、ずっと黙って答えを待っていた。2分後、運転手さんは、「いねえな…」と言った。長いな、と思った。

 

しばらくの沈黙ののち、運転手さんが、「ったく、政治家ばっかり金儲けやがって、ほんとけしからんよ」と言った。またその話に戻るのか、と思った。僕は、「我々のほうは景気がなかなかよくならないですね」とそれっぽいことを言っておいた。運転手さんは軽く頷きながら、「オォォン…」と言った。適当に返事しないでほしいと思った。

会話が途切れたと思ったのも束の間、運転手さんが再び話し出し、「景気が良いのはお上だけなんだよな。いっつも俺たち庶民の景気が良くなる前に、また社会全体が不景気になっちまうんだ。ハッハッハ」と笑っていた。なんで急に笑い出したのかよくわからなかったので、「オォォン」と言っておいた。

 

ふと気になったので、「やっぱり運転手さんて景気に左右されますよね。タクシーの運転手さんのお給料って正直どれくらいなのか想像つかないんですけど、どうなんですか?」と聞いてみた。「俺は月に50くらいかな」と言っていた。十分もらってるじゃねえかと思った。

 

家に着いたので、「今日は、綺麗な三日月ですね。」と、全く意味のない言葉を意味ありげに言ってタクシーを降りた。運転手さんは、「俺はお前の言いたいことが解釈できたぞ」とでも言いたげなイントネーションで、「ああ、そうですな」と返してきた。適当なこと言っておいてなんだけど、適当に返事しないで欲しいと思った。