ペプチ

コント等をしています。(Twitter: @pepuchi_yan)

下ネタ好きの女教師

小学校六年生の時の担任が、何かにつけて下品な話をしたがる40歳前後の女性教師だった。

 
男子が「おまえ、あそこがでかくて羨ましいなおい!」などと言って他の男子生徒を茶化すと、すかさず話に割り込んできて、「実は大きくてもいいこと何もないんですよ」などと、かなりあれな発言をする人だった。
 
家庭訪問のときも、僕と母親の前で、「児童虐待をする親や教師は信じられないですよね。私もようやく子どもを授かることができたんですけど、あんなにかわいい子どもを虐待するなんてありえないですよ。私の旦那は、結婚してからずっとその気になってくれなくて、頑張ってそういう気分にさせてね、部屋を薄暗くしたりとか、寝間着もそういうのを選んだりとか、頑張ったんですよ。それでようやく!ようやく旦那と、こう、ね。ええ。そういうことになって。」などと、いきなり何を言い出すんだということを言ってしまう人であった。あとで母親に、「あの先生はいつもああなのか」と聞かれた。「いつもはもうちょっと、ひどい」と返した。
 
そんな先生は、クラスのA君という男の子のことを小馬鹿にしているフシがあった。A君は言動が少しおかしなところがあり、クラスメイトたちにも変な目で見られていたのだが、先生も彼のことを奇妙な人だと思っていたようであった。
 
 
ある日、A君が道徳の授業中に、「コントを考えたから見て欲しい」ととんでもないことを言い始めた。先生は、こいつはおもしろいことになるぞと思ったのか、その意見に大賛成し、急遽授業を中断させ、みんながA君を囲む形でそのネタを見ることになった。クラスの全員が、見る前からA君を馬鹿にする気分に満ち満ちており、僕は、人間の悪意は恐ろしいなと思った。
 
A君は椅子に腰掛け、なにやら小道具らしき紙切れを見つめながら、「ああー、郵便物の仕分けも退屈だなあ」と素晴らしく教科書的なコントの入り方をした。
続けて彼は、「そうだ、手紙の中身、勝手に見ちゃお」と言い、手紙を読み始めた。どうやらそういうネタらしい。
 
「『エヘヘ、いま何色のパンツはいてるの?』ってなんじゃこの手紙!」など、まあ、おもしろくはなかったのだが、彼のチャレンジ精神はずば抜けているなと思い、僕は尊敬の念を抱き始めていた。
 
その後もネタは続き、少なくともそんなにクソつまらないネタではなかったと記憶しているのだが、周囲の視線は冷たく、完全にすべってしまっていた。A君はそれに耐え切れず、ネタが終わるやいなや、教室から走って逃げ出してしまった。
 
僕たちは彼を追いかけた。彼は廊下の窓に足をかけ、飛び降りようとしているところだった。いや、いくらなんでも大げさだろうとは思った。
 
先生は止めに入り、A君を泣きそうな顔で見つめると、そのまま抱きしめた。先生とA君は、強く抱きしめあったまま、号泣していた。クラスのみんなは、黙ってそれをただ見ていた。人生においてすごく無駄な時間だった。
ようやく口を開いた先生は、「自分に自信を持ちなさいよ。おもしろかったじゃないの。パンツの色聞くところとかおもしろかったじゃないの。パンツの色聞くって、すごくおもしろいじゃないの。」と言った。
やっぱこの人あれだなと思った。